自分が生まれ育った国を離れ、全く違う国に住む人たちは結構いる。彼らは自国と異なる文化を学んだり、現地の人たちと交流し友達を作ったりして段々とその地に馴染んでいくことを思い描く。そのプロセスの中で、一つ大きな壁に直面することがあるーそれは、本当に仲の良い現地の友人を作ることだ。
日本に移住した外国人で日本人の友達がいる割合は結構低いと聞いたことがある。YouTubeやRedditでのコメントを見ていてもそう感じるし、日本に住んでいた時に出会った留学生も似たようなことを言っていたのを覚えている。
日本に住んでいる時は、漠然と”外国人”は外国人留学生の仲間内だけで付き合うのではなくて、せっかくだからもっと日本人と交流すればいいのになぁと思っていた気もするが、フィンランドやスイスに自分が外国人として暮らしてみて、彼らの立場や気持ちがより分かるようになった。端的に、越えるべき壁が何個かあって難しいのだ。
まず、現地の日本人と知り合って話す機会が(少なくとも私の母校の大学では)まずそんなになかった。大学には英語だけで学位を取れるコースがあって、そこだけでコミュニティーが完結してしまうし、日本語だけで授業を受けている他の日本人の学部生と授業すら被らない。出会う機会が少ないだけではなく仮に少し話す機会があっても、特に日本で顕著だが、話が盛り上がる・相手と一緒に時間を楽しむことができるくらいの英語力が日本人側にないし、そもそも外国人に慣れていないからどういうコミュニケーションを取ったら良いのか分からないという問題もある。
さらに、ファーストコミュニケーションから友人関係へと発展するには、お互いのニーズというか興味が双方に向かう必要がある。ここがまた難しい。仮に海外からきた留学生が日本人と友達になりたいと思っていても、日本人側にその需要がないことが多い気がする。だって自分には既に子供の頃からの日本人の友人や家族が周りにいてコミュニティーに不足していないから。そして、自分の国をわざわざ飛び出して全然違う国に住んでみようという人と、日本はおろか自分の地元から離れたこともないという人では、気が合わない・価値観が合わないことも多いだろう。
フィンランドやスイスは、日本よりもかなり人種的な多様性があるし英語が流暢に話せる人が圧倒的に多いが、それでも現地の人とすごく仲良くなるのはハードルが高いと感じる。それは言語の問題ではなく、現地の人に外国人と友達になるモチベーションがそんなにないことと(もう既に自分と仲の良い友人やコミュニティーがあるから)、やはりお互いが向いている方向性が少し違うことも理由として挙げられるだろう。フィンランドの大学院で出会ったフィンランド人のクラスメイトは、わざわざ英語のインターナショナルなプログラムを選んで来ている人達だったので割とオープンな印象だったが、それ以外の地元の同世代のフィンランド人とは交流する機会がなかった。スイスの現在の職場ではスイス人の同僚が多いし、パートナーの親戚もスイス人が多いのだが、なんというか全体的に内向きだなぁという印象注1)を感じる。海外旅行に行く頻度や話せる言語の数の寡多はあまり関係なく、住むならスイスが一番だし、自分の国を離れるなんて絶対にしたくないし考えられないという姿勢が割と強めだからだと思う。あとは日本人と少し似ていて全体的にみんなフレンドリーだし表面上はすごく丁寧に振る舞うけど、一定の距離感を超えられないというか、なんか自分のプライベートには踏み込ませないようなうっすらとした壁があるよね、みたいな話は留学生の中では結構合意が得やすい。
だからなのか私は、自分の国を離れる覚悟をし馴染みのない土地で外国人として暮らしている人達とは、現地の人とはまた違う絆が築きやすい気がしている。お互いのその海外の地に至るまでの決断やライフストーリーに共感しやすかったり、お互いの国や(現在住んでいる国を含め)それまでに住んだことのある国の文化や社会制度の違いなどを話して盛り上がったりする。”外国人として生きること”という共通の話題に尽きないことやメンタリティーが近しいことが、関係性を続ける上での一つのキーになりうるのだと最近は思う。
このAbroad in Japan というチャンネルの “12 Reasons NOT to Move to Japan” という動画の中には、日本人の友人を作ることのハードルの高さが日本移住をおすすめしない理由の一つに挙げられている。ちなみに彼は日本に住んで10年近く経つらしいのだが、彼の数少ない日本人の友人は、良い意味で(?)「アウトサイダー」、つまり従来の日本人の枠から外れているような人達が多いという。
そしてこれは、日本に限った話ではないと思う。例えば、research institute E2 Tutkimusによるこの調査によると、フィンランドで求職中あるいは働いている外国人の過半数が現地の友達を作ることの難しさを挙げており、フィンランドで学位を取った留学生もフィンランド人の友人の少なさ等によりフィンランドを離れることを検討している。また、この動画のコメント欄には、日本だけではなくドイツやノルウェーなど様々な国に外国人として住んで現地の友達を作ることの難しさについて語っているコメントが沢山ある。私の好きなコンテントクリエイターのUyenも、ベトナムから移住してきてドイツで現地の友人を作ろうと頑張っている動画をあげていたりする。
ただ、国や文化によって現地の友達の出来やすさはすごく変わってくると思う。イタリアとかスペインとかポルトガルとかもうちょっと陽気な国だったら話は違ってくるのかもしれないし、アメリカはアメリカでまた違う経験ができそうである。私はフィンランドではインターナショナルな友人は沢山いても現地の友人がそんなにできなかったと書いたが、一人だけ今でもすごく仲の良いフィンランド人がいる。彼女は実はスウェーデン語を母語とするフィンランド人(人口の数%ほど)だ。彼女はフィンランド語がネイティブではないことや自分の国の中でもマイノリティーであることもあって、フィンランド人とは思えないほどのオープンさと明るさだ。実際フィンランド語を話すフィンランド人より、スウェーデン語を母語とするフィンランド人の方がフレンドリーだった個人的な経験があるので、一つの国の中でも文化や言語が違うと(あくまでも傾向として)振る舞い方が違ったりするので、国ごとに一括りにはできないなとも思う。
「海外で現地の友人を作るには?」というタイトルでこの記事を書き始めたが、現時点の私ではそんなに明確な答えが出せそうにはない。むしろその国での移民や留学生の方が友人になりやすいという結論に落ち着きそうだ。とはいえ、留学生や仕事で移住してきた”外国人”は、どこかのタイミングでその地を離れてしまうことも多いだろう。それを嘆く気持ちはすごく分かるし、せっかく作った友人やコミュニティーを失うくらいなら初めから作らなければ良いという人もいるかもしれない。
ただ、その国の人には絶対になれないという現実と、その国の人には分かってもらえない体験がある。だからこそ、インターナショナルな移民の人達とは繋がった時は(その友情がいつまで続くか分からないにしろ)、大切にしたいと私は思う。そして現地の友人を作るには時間と根気と語学力がいる。もう少しドイツ語を頑張るモチベーション・ここに根を張る気概ができたら、現地の友人を探してみたいとも思う。
注1) メインでは書き忘れたが、スイスの人達の内向き性というのは私がスイスで出会うスイス人(つまりスイスを離れていない集団)と話していて感じることであり、海外に移住しているスイス人(スイス人人口のの11%:約81万人)と交流したことがあまりないので、考慮していないサンプルがあることを忘れないようにしたい。ちなみに外務省の統計によると海外に長期滞在・永住している日本人は2023年で約129万人(日本人人口の約1.1%)なので、日本人の私に”スイス人は内向きだ”など言われたくないかもしれない笑。